見市講師の赤痢アメーバのシスト形成における超長鎖セラミドの重要性を解明した論文がmSphere誌に掲載されました。

私たちは赤痢アメーバの宿主間伝播の形態であるシストの研究を行っています。
赤痢アメーバは、ヒトの大腸に寄生し赤痢アメーバ症を引き起こす寄生虫の1種です。ヒトへの感染は、感染者の糞便中のシストの経口摂取によって引き起こされます。大腸内に寄生した赤痢アメーバ(アメーバ運動する栄養体)の一部がシスト(固いキチン壁を持つ休眠体)へと形態変化し糞便中に排出されますが、その制御機構など詳細は不明です。本論文では、シスト形成期特異的に合成される超長鎖セラミドが、シスト細胞膜の透過性低下、それに続く休眠化に不可欠であることを見出しました。

赤痢アメーバも栄養体の時期には宿主であるヒトなどによく見られる炭素数24の長さのセラミドを主に合成しています。一方、シスト形成を誘導すると超長鎖セラミドの合成が開始され、上記のような炭素数が26、28、30のセラミドが急増しました。これらの超長鎖セラミドの合成に関与する遺伝子群を同定し、その遺伝子群がシスト形成特異的に発現するように厳格に制御されていることを明らかにしました。さらに、シスト形成誘導後にセラミド合成を、阻害剤を用いて阻害すると、細胞膜の透過性が上昇した異常なシストが形成されることも見出しました。

以上のことから、シスト形成に伴う超長鎖のセラミド合成が細胞膜の透過性変化に重要であることが明らかになりました。シストは細胞膜の透過性を下げる事で、自然環境中で生存する能力を獲得、次の宿主へと感染を拡大していきます。本研究でシスト形成時に重要なセラミド代謝を解明できたことは、今後の、“赤痢アメーバの感染拡大に必要な分子機構の解明”ならびに“感染伝播阻止の標的分子の提示”に繋がると考えています。

本研究は、理化学研究所(有田誠博士、津川裕司博士)、かずさDNA研究所(池田和貴博士)と共同で行ったものです。本研究成果は、mSphere(Mi-ichi et al., mSphere, 6(2):e00174-21. 2021)に掲載されています。

Stage-Specific De Novo Synthesis of Very-Long-Chain Dihydroceramides Confers Dormancy to Entamoeba Parasites